夏からの海風

夏からの海風

人の記憶なんて、曖昧だ。
街の姿なんて、時間が経てば心の中から忘れ去られて行く。
20年前に訪れた駅前には、新幹線が走っていて昔の面影さえもなかった。いや、もしかすると、自分の記憶そのものがすでになくなっていたのかもしれなかった。
駅から歩いてすぐの日本海を見に行った。
海を近くに感じた時、ワクワクした。海からの強い風が頬にあたった。
大きな台風が来る予報があるのに、日本海は荒れていなかった。
海から陸へ吹き抜ける風が街の方に向かっていった。高い山々にぶつかってゆく姿が目に見えるようだった。街は、日本海の前、風の中に存在していた。
風の吹き方が上から下、波が押さえつけられていた。台風が来るのに風の方向 が変わらないのが、不思議だった。
時が乖離して、空間から去って行った。時間なんて一瞬の過ちのようだった。
どこを探しても過去の自分姿はなかった。20年前に一か月近く滞在した街のどこに自分がいたのかさえもなかった。そして、その後に襲った大火の後さえなかった。
刹那という現在だけに生きている気がした。
悲しさだとか、嬉しさだとか、感情は過去になったら現在に植えつけ返せない。
過ぎ去った時間は、絶対的な過去でしかありえない。時間は絶対に取り戻せない。
だから、感情に乗り移って悲しくなる。
時代は、常に変わり、淘汰を繰り広げる。あの頃、ローカル電車が長かったのに、今は一両でバスみたいになった。
あの頃は良かった。
あの頃は楽しかった。
それは、本当なのかもしれない。
日本海に夕日が映った、海面が光を力いっぱい弾き返した。
現在と過去は重さらなかった。
台風が来る前、見知らぬ街、日本海を見に来た、そんな気がした。
海の姿だけは、あの時と変わらない。
光を湛える海だけがその姿を変えない気がした。
心も、人の姿も変わりゆく、その中で夏からの海風は、いつもでもいつまでも同じように駆け巡っているのだと知らされた。
夏、海風の中。
旅する土地で、一人の女性に心を寄せている自分が映された。

糸魚川を訪れて

2019年8月13日 富山



夏からの海風

人の記憶なんて、曖昧だ。
街の姿なんて、時間が経てば心の中から忘れ去られて行く。
20年前に訪れた駅前には、新幹線が走っていて昔の面影さえもなかった。いや、もしかすると、自分の記憶そのものがすでになくなっていたのかもしれなかった。
駅から歩いてすぐの日本海を見に行った。
海を近くに感じた時、ワクワクした。海からの強い風が頬にあたった。
大きな台風が来る予報があるのに、日本海は荒れていなかった。
海から陸へ吹き抜ける風が街の方に向かっていった。高い山々にぶつかってゆく姿が目に見えるようだった。街は、日本海の前、風の中に存在していた。
風の吹き方が上から下、波が押さえつけられていた。台風が来るのに風の方向 が変わらないのが、不思議だった。
時が乖離して、空間から去って行った。時間なんて一瞬の過ちのようだった。
どこを探しても過去の自分姿はなかった。20年前に一か月近く滞在した街のどこに自分がいたのかさえもなかった。そして、その後に襲った大火の後さえなかった。
刹那という現在だけに生きている気がした。
悲しさだとか、嬉しさだとか、感情は過去になったら現在に植えつけ返せない。
過ぎ去った時間は、絶対的な過去でしかありえない。時間は絶対に取り戻せない。
だから、感情に乗り移って悲しくなる。
時代は、常に変わり、淘汰を繰り広げる。あの頃、ローカル電車が長かったのに、今は一両でバスみたいになった。
あの頃は良かった。
あの頃は楽しかった。
それは、本当なのかもしれない。
日本海に夕日が映った、海面が光を力いっぱい弾き返した。
現在と過去は重さらなかった。
台風が来る前、見知らぬ街、日本海を見に来た、そんな気がした。
海の姿だけは、あの時と変わらない。
光を湛える海だけがその姿を変えない気がした。
心も、人の姿も変わりゆく、その中で夏からの海風は、いつもでもいつまでも同じように駆け巡っているのだと知らされた。
夏、海風の中。
旅する土地で、一人の女性に心を寄せている自分が映された。

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