カプリブルー ６

　　　6　　カプリブルー / 憎しみの青

青は、青い色を失い、
青から遠ざかって、意味をも失う。

波が消え去り、風も消えた。
青い色も消えた。
青がなくなって、灰色に変わった。
歌声も静かに消えた。
声を出そうとした、声は出なかった。
逃げ去ってゆく人生は追いかけない。
人生は、不条理の塊だから。
苦しも憎しみも無意味にするから。
だから、私は取り乱さなかった。
意味の為に歌い描く、けれどその意味も消えた。
隠されている真実は、偽り、伝わらない真実は、嘘。
不条理を物語る歌だけが、真実を伝えた。
青色に滲む心は嘘に変わった。
私は、誘惑に負けた。
青に溶け込む魔物に憑つかれた。
時は、止められない。
どんなに、時間の中に感情を埋めても時は過ぎ去った。
偽が突然、完璧に乗り移る時が来た。
長い歴史の中に、埋没する一つの生の証。
運命に抵抗しても、運命には服従するしかなかった。
時が経てば、私の人生などその存在も忘れ去られてゆく。
生を失うことが、この世からの救いだとは思わない。
生がなくなることは、今からの救いだけ。
死によって、救われるとも考えなかった。
カプリの青を憎しんだ。
私の愛する人を返してと。
それが私の救いだから。

青は、青い色を失い、
青から遠ざかって、意味をも失う。


著作集「波の奏でる音楽を聴きに」
「カプリブルー、6.憎しみの青 」より抜粋