バルセロナ

バルセロナ

バルセロナで、昔、書いた小説。
「すべては、嘘という感情から始まる」という書き出だしだった。
乾いた空気に、潮風がいつも優しく包む街だった。
溢れる光の中で、地中海をいつも感じていた。
海が見たくなったら、いつでも見れるという安心感。
バルセロナにはそれがあった。
けれど、バルセロナにいるのは、いつも文学のせいにした。
マドリードに行けるチャンスもあったのに。
バルセロナでスペイン文学の勉強をしたいと嘘をついた。
本当の理由は、マドリードには海がないからだった。
マドリードが海に面する街だったら、バルセロナには住んでいなかった。
きっと、マドリードに行っていた。
確かに、ガウディは衝撃的だった、けれど、時間がたてば街に溶け込むその姿は、いつしか、当たり前のようになった。
海が見たくなるといたたまれなくなる。何も、手につかなくなる。
それは、今も変わらない。
今から、見に行くと夜中でも出かける。
潮風に頬をかざし、波の音を聞くだけで落ち着く。
波の音には、不思議な音楽がある。
誰も、奏でられない音楽がある。
どうしても、それが聞きたくなる。
バルセロナでも、同じだった。
芸術のすべてを学んだと思う、あの街で。
骨を埋めるかもしれないと思った時もあった。
愛した街だ、だから、美しいという言葉は使わない。

バルセロナは、地中海に面する街。
海のある街だ。